46言目:惜別 vol.4

vol.3 の続き

サラマンダーズでの活動は本人から多少聞いた程度だが、馬原監督、藤岡コーチはじめ首脳陣の方にかなり気を掛けていただいたと聞いている。
多少仕方のない側面ではあるが、大学までほぼ自己流でやってきた芦谷は、やはりプロの目には練習の取り組み方などの意識において未熟さが映ったようで、その点を徹底して指導いただいたようだった。プロの指導者という素晴らしい存在の知識やノウハウを、芦谷はどんどん吸収していったことであろう。

無死満塁というピンチに登板し無失点斬りという素晴らしいデビューを果たした芦谷は、その後、先発の軸として大活躍する。

課題のストレートは、やはり高めに抜ける印象が若干拭えなかったけれども、スライダーは独立リーグというステージでも充分に通用した。サラマンダーズの強力打線が援護してくれるという安心感もあり、気持ちよくどんどん腕が振れたことだろう。福岡ソフトバンクホークスとの交流戦で、柳田選手を相手に強気のストレートで詰まらせ打ち取った経験も自信になったのかもしれない。
終わってみれば、最多勝、最優秀防御率、最多奪三振の投手3冠、リーグMVPとあわせて4冠と、リーグ内では無双状態。圧倒的な実績を残すことに成功した。
更に、10月には独立リーグ日本一を決める試合の決勝に先発し、5回までノーヒット、8回無失点という完璧な結果を残し、チームを日本一に導くという大金星を挙げる。

前年とは異なり、やれることは全てやり切ったという自信を持ち、リーグでの圧倒的な実績を引っさげて臨んだドラフト。

 

しかしながら、無情にも芦谷の名前が呼ばれることはなかった。

 

ドラフト後の彼に会えたのは、11月に伊都グラウンドで行われたOB戦だった。
私自身、彼がどういう進路を選ぶのか気になっていたが、OB戦がひととおり終わったあと、彼のほうから、今後の進路について話をしてくれた。

やはり、1年勝負という宣言どおり、心は現役引退で決まっているようだった。

ただ、次のステージはどうするのだろう。
そんな私の心配は、まったくの杞憂だった。

前年同様、芦谷は本当に多くの業界の方から声を掛けていただいているようだった。

熟考を重ねていて、今の時点ではこういう方向に進もうと思っています。
ただ、次会った時には、全く別のことを言っているかもしれません。
一貫性がなくてすみません。笑

と彼は笑っていた。

何言ってんの、一貫性なんかなくていいんよ。
考えなんてどれだけ変わってもいいんだから。
一貫性がなくても、誰も芦谷のことを非難しないよ。
野球しかしてこなかったあなたが、今は色々な業界を知ることができるせっかくのチャンスなんだから、しっかり悩んで決めればいい。
幸運なことに、多くの方に声を掛けていただいている。あなたは選べる立場にある。こんな恵まれていることはないんだから、有難く、しっかり考えて決めなさい。

そんな言葉をかけた気がする。

約5年、芦谷のことを見守っていたつもりでいたが、芦谷の本気の姿勢を見ていると、「自分もこのままでいいのか、もっと本気で生きなければならないのでは」と思うことが何度もあった。
私は「体・技・心」の順番で大事だと普段から口にしているが、芦谷は「心」、つまり気持ちが何よりも大事だと常々話していた。そんな芦谷の本気の気持ちが、今までも、そしてこれからも多くの人々を魅了していくのであろう。
そう考えると、私自身も、結局は芦谷から刺激を受け、いい意味で芦谷の本気に巻き込まれた人間のひとりに過ぎないのだろうと思う。

芦谷がこれからどんなステージに進むのか、期待しかない。たとえどんなステージを選んだとしても、彼は持ち前の知識欲と行動力、そして気持ちで突き進んでいくはずである。それは確信している。

芦谷の今後の活躍を楽しみにしている。

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