33言目:ブルペンを使いこなす

ブルペンの使い方は、投手の必須の練習であるにも関わらず、その使い方を誰かに教わることが意外と少ない練習です。

私も初めてブルペンに入った時、何をどう投げていこうか少し困った記憶があります。

そもそも、プルペン(bullpen)の語源は「牛を囲う場所」だそうです。

その理由は諸説あるらしいですが、「闘牛場へ送られるのを待つ血気盛んな牛の様子を投手になぞらえた」という説を私は支持しています。

現役時代を思い返せば、横で投げている先輩や同級生のエグい球筋を見ながら、自分も負けじと力んで投げてキャッチャーに怒られたのは良い思い出です。古臭いかもしれませんが、ブルペンでは血気盛んに目をギラギラさせて投げ込む投手であって欲しいものです。

私もブルペンの使い方は我流なので、もっと良い使い方はたくさんあると思いますが、あくまで一例ということで。

 

試合前の投球練習を除き、普段の練習でブルペンを使う目的はこんな感じだというのが私の考えです。

1.球を磨き上げたい時

2.実戦を想定したい時

完成された一流のピッチャーであれば、これに加え「球の状態を確認する時」とか「とりあえず気持ち良く投げたい時」などが入るかもしれませんが、修行中の投手の場合は、より目的意識を持ってブルペンに入るべきだと個人的には思います。

 

1.球を磨き上げたい時

「今日は球を磨く日やで」と決めたら、徹底して球を磨き上げることに集中しましょう。ただし、効果のない投げ方をしないよう注意が必要です。

例えば、


ストレートを外角に投げる。

納得のいく球が投げられない。

何球か続ける。

納得のいく球が投げられた。

じゃあ今度はストレートを内角に投げる。

納得のいく球が投げられない。

何球か続ける。

納得のいく球が投げられたので、

次はスライダー。

・・・


こういう投げ方をしている人は結構いると思います。

せっかく良い球がいったのに、なぜ満足しちゃって次のコースや球種にいってしまうのでしょうか。

良い球がいったら、その感覚を忘れる前にどんどん投げ込んで身体に覚え込ませるべきではないですか?

納得のいく球が投げられるまでに何球も費やしていたら、実戦では全く役に立ちません。

球を磨き上げることは、試行錯誤しながら反復練習をして、納得のいく球が投げられる確率を上げていくということです。

今が4球に1球しか納得できないのであれば、良い球の感覚を身体に何とか染み込ませて、次は3球に1球納得できるように目指していくべきです。

 

このことに関して、現役時代に苦い思い出があります。

 

ブルペンで投球練習をしていた時、あと3球で終わるつもりが、全然良い球がいかず納得できないまま結局20球以上投げてしまい、キャッチャーをしていただいていた先輩をブチ切れさせてしまいました。

普段からとてもかわいがっていただいていたその先輩をブチ切れさせてしまったのは、後にも先にもその時だけです。

「試合の時に、良い球を投げるまで20球かけるんか?そんな場面ないやろ」

「良い球が投げられない時は、なぜそうなったのか原因を分析する方が大切なんじゃないんか」

という言葉が、今も自分への戒めとして胸に突き刺さっています。良い勉強をさせていただきました。

 

ちなみに、以前ご指導いただいた元ヤクルトの安田猛さんに、「投げていて調子が悪いと感じた時の心持ちはどうあるべきか」と伺ってみたことがあるのですが、やはり「そもそもなぜ調子が出ない結果になってしまったのか、原因を探ることの方が大切だ」とおっしゃっていました。

 

2.実戦を想定したい時

私は実戦経験が圧倒的に足りない投手でしたので、試合が近付いてくると実戦を想定してブルペンに入っていました。

このことに関して、数年前、後輩が投げている試合を観戦した後に、こんな会話をしたことがあります。


私「お前さぁ、カーブの後のストレートが全くストライク入ってなかったけど、ブルペンで『カーブが外れた後のストレートを確実にストライクに入れる練習』とかしてんの?」

後輩『いえ、してないです。。。』

私「・・・。あと、右打者の時、外角に比べて内角の球威が極端に悪かったけど、ちゃんとブルペンで『右打者の内角に投げきる練習』とか意識してやってんの?」

後輩『いえ、してないです。。。』

私「・・・。」


ちょっと極端な例ですが。

勿論、試合前の投球練習で入るプルペンは意味合いが全く異なります。

試合前のブルペンの目的は「今日の球の状態を確認すること」と「最少の球数で肩と気持ちを作ること」が基本です。

なので、例えば


ストレートを内角に、

外角に、

スライダー、

カーブ、

チェンジアップ、

ちょっとセットで投げて、

最後はストレート3球投げて締める。


でも問題ないでしょう。

ただ、完成された一流の投手ならまだしも、修行中の投手が普段のブルペンでもこんな投げ方しかしていないのであれば、ちょっと意識が低いです。もっと頭を使うべきだと思います。

いくつか簡単な例を挙げてみましょう。

試合では外角一辺倒、内角一辺倒に投げ続けるという場面はそんなに多くありません。であれば、ブルペンでは「内角と外角を1球ずつ交互に投げて、どれだけ正確に投げられるか」を練習しておいた方がより実戦に近くないですか?

また、試合でカウントを悪くしてしまい、ストライクを入れにいったストレートを打たれることが多いのであれば、例えば「ストレートが2球外れた後に変化球で簡単にストライクを取る」練習をブルペンでしてみてもよくありませんか?

試合本番にそういう状況になって苦しむくらいなら、普段のブルペンからそういう状況を作って練習しておけばいいのに、と私は思います。

「ブルペンはそんな使い方をするものではない」という考えの方も当然いらっしゃると思います。そういうご意見もあって然るべきと思います。冒頭で述べた通り、これはあくまで私の考えなので、もっと素晴らしいご意見はあるはずです。

普段から述べていますが、自分の軸を持って取り組んでさえいれば、全く問題ないと思います。

ただ、何も考えずいつも通りの練習ばかり続けて、結果、試合で同じ失敗を繰り返すくらいなら、少しでも工夫して試行錯誤しながら取り組んだ方が絶対に効果的だと思います。

うちの学生たちの中にも、打者に立ってもらって球筋の感想を聞きながら投げたり、試合でのイニング間のインターバルを想定して、ブルペンでもインターバルを入れながら投げるなど、自分なりの工夫をしている学生もいます。

今は、以前のようにオープン戦などの実戦経験が積めません。そういう状況で、ただ「いつものことができない」と諦めたらそれまでです。そうではなくて、ちょっと頭を使って工夫してみてください。そうすれば、実戦に近い形で練習することも不可能ではないはずです。

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